成人成長ホルモン分泌不全症とは
成長ホルモンとは
成長ホルモンは脳の下垂体から分泌されるホルモンのひとつです。軟骨、骨、肝臓、脂肪、筋肉、心臓、血管、腎臓、脳、リンパ球などに直接働きかけるか、またはIGF-Ι※という物質を作らせることで、体に大切な作用を及ぼします。
代表的な働きは成長促進作用と代謝調節作用です。子どもでは体の成長に必須のホルモンですが、大人になってからも体のさまざまな代謝調節に関わり、一生を通じて大切な働きを担うホルモンです。
成長ホルモン分泌不全症は成長期の子どもでは低身長などの身体症状として現れ、受診のきっかけとなることが多いようです。成人の場合、代謝調節作用の障害によるさまざまな症状として現れますが、肥満や全身倦怠、女性の更年期障害の症状や単なる老化現象と区別が難しい場合があります。
成長ホルモン分泌不全症とは
年齢とともに成長ホルモンの分泌が少しずつ減っていくのは自然にみられる現象ですが、成人で脳腫瘍(下垂体腫瘍)など何らかの原因で成長ホルモンの分泌が損なわれる状態を成人成長ホルモン分泌不全症と呼びます。
主な原因は下垂体周辺の脳腫瘍によるもので、この部位に腫瘍がある人のうち、4人に1人が発症するといわれています。一方、全く原因のわからない場合もあります。以下にあてはまる人は、この病気の可能性があります。
1)視床下部や下垂体疾患の治療を受けたことがある、または頭部に放射線治療を受けたことがある人。
2)小児期に成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断を受けたことがある人。
3)頭蓋外傷(交通事故や出生時に逆子で難産だったなど)のある人。
「寝る子は育つ」といわれるように、体が成長する小児期では成長ホルモンは夜間就寝後に多く分泌されます。思春期前の分泌量を100%とすると、思春期後期ではその2倍にも達しますが、成人後は次第に減っていき、30~40歳代では50%、60歳代では30%くらいに減るといわれています。
成長ホルモンの分泌は睡眠、運動、ストレスで促進され、加齢や肥満で低下します。
成人成長ホルモン分泌不全症の症状
代謝障害、心血管系疾患のリスクの高まり
成長ホルモンが不足するとコレステロールや中性脂肪など脂質の代謝に異常を来たすと共に、内臓脂肪が増えて、メタボリックシンドロームに似た症状が現れます。また、成長ホルモンの不足は狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの心血管系疾患のリスクが高めることがあります。
- <代表的な症状>
- 内臓脂肪が増加する
- コレステロールや中性脂肪が増加する
- 心臓や血管の機能が低下する
- インスリン作用の低下を認める
- 動脈硬化症のリスクが増す
- 心筋梗塞や狭心症、脳卒中を発症するリスクが増す
筋肉や骨量の減少、QOLの低下
成長ホルモンは骨量の維持にも大きな役割を果たします。成長ホルモンが不足すると骨の代謝が障害されて骨粗鬆症のリスクが高くなります。また、筋肉量が減少し、それに伴い運動能力が低下します。さらには体力や気力が減退し、疲れやすい、気分が落ち込む、精神的に不安定になるなどの症状も現れます。また、発汗量が低下し皮膚が乾燥しやすくなります。
- <代表的な症状>
- 骨が弱くなり、骨折や骨粗鬆症をおこしやすくなる
- 皮膚が乾燥し薄くなる
- 体毛が柔らかくなる
- 筋肉量が減少し筋力が低下する
- 疲れやすく体力・スタミナが続かなくなる
- 気力が低下し、気分が落ち込む
- 集中力が低下する